銀(元素記号Ag)は古来、金、銅と共に貨幣金属として世界的に流通してきた貴金属のひとつです。また、長年に渡り食器や歯科用充填材等の医療用機能材料として人体に直接使用されてきた金属でもあります。これらの事実は、銀が安全かつ有用な天然の物質であることを最も雄弁に物語っています。
日本は16~17世紀頃、石見銀山から銀を大量に産出した世界有数の銀産出国で、その量は当時全世界の銀産出量の実に3分の1に達したと伝えられています。
金属精錬技術の稚拙な当時としては不純物の分離除去が最重要の技術課題であったと想像されます。しかし、銀は他の金属には無い特異な物性によって比較的容易に高純度の精練が可能で、このことが当時の銀採掘事業を成功させた要因の一つであったと考えられます。
銀の特異な物性とは、銀を空気中で加熱溶解しても酸化せず金属銀が得られると言う性質です。
銅、鉄、亜鉛等の金属は空気(酸素を含む)中で加熱溶解するとすべてが酸化物になってしまいます。
酸素雰囲気中で加熱溶解しても酸化物を生成しない銀の性質は92種類の天然元素の中でも稀な存在で、金や白金族元素に多少類似性が認められる程度です。このように遷移金属の中でも特異な存在の銀は、金属元素中電気抵抗率が最小、熱伝導率が最大と電子材料として魅力的物性を持つ反面、銀マイグレーション(移行現象)による信頼性の低下など特異な問題点を持っています。
空気中で加熱されても酸化されず金属の状態を保つ銀の性質は、他の一般的金属元素には見られない特異な性質によるものですが、酸化以外にも銀には他の金属とは著しく異なる性質が多々あり、それらは銀の原子構造によるものであることが種々の物性測定から示唆されていますが、それらの詳細な機構に就いては未だ明らかにされていません。
銀の特異性を象徴する種々の化学的ないし物理的現象に就いては別項で説明しますが、以下最も卑近な一例をご紹介します。
既に述べたように、銀は金属の状態が化学的に最も安定で、銀の化合物は化学的に不安定で熱や光等で容易に分解還元され金属銀に戻る性質があります。塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀等のハロゲン化銀に光が当たるとその部分だけが金属銀に還元されて黒くなります。この反応は古くから写真の感光材料として利用され、かつて銀の消費量の大半が写真フィルムの生産に費やされていました。銀に替わる性質を持つ金属は他にありません。
銀の抗菌機構が銀原子の物理的(電気パルス)挙動に起因していると言うことが、種々の実験事実から確認されつつあり、そのことがUFS開発研究の発端となりました。銀の物理的挙動の特異性を示唆する現象に就いては別途記載していますので、興味のある方はご参照下さい。